カノジョの彼の、冷めたキス


そのとき、一階に到着したエレベーターがガタンと小さく音を立てて止まった。

エレベーターの扉が開いて、あたしの腰に回されていた渡瀬くんの腕も頬に触れていた手のひらも、まるで何もなかったようにすっと離れていく。

ついさっきまであんなにも真っ直ぐにあたしに向けられていた視線が、冷たく逸らされる。

そして乗り込んだときと同じように、あたしより先にエレベーターから降りていった。


「よかったら、一緒にメシでも食って帰んない?駅前の和食屋とかだけど」

触れられていた余韻からすぐに抜けられないまま呆然と立ち尽くすあたしに、渡瀬くんが何事もなかったように誘いかけてくる。

あたしはその誘いに、深く考えるまでもなく頷いていた。


和食屋まで向かう道中、食事している間、その後の駅までの帰り道。

渡瀬くんのあたしに対する態度はいつもどおりだった。

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