華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
「こんばんは。僕は閣下のもとで騎士見習いとして働いています、エトワルと申します」


丁寧に挨拶をしてくれた彼、エトワルくんに続いて、女の子もぺこりとお辞儀をする。


「あたしはアンジェ。ここの使用人です」


アンジェさんというらしい彼女は、エトワルくんより若干背が高く、くせ毛のショートカットがよく似合っていて、活発そうなイメージだ。

騎士見習いに使用人か……だからセイディーレとも面識があるのね。

とっても愛想がいいふたりにすぐに気を許した私も、にこやかに挨拶をする。


「はじめまして。私はリル──」


名乗ろうとした瞬間、わざとらしい咳払いが聞こえ、思わず口をつぐんだ。

キョトンとしてセイディーレを見やると、ほんの数秒考えを巡らせたような彼が、代わりに私を紹介し始める。


「彼女は“ルリ”だ。今日から数日、俺とここに身を置かせてもらう」


……あぁ、そうか。一応ここのふたりにも、私がリルーナ姫だということは内緒にしておくのね。

すぐに理解した私は、新たな名前を間違えないようにしなくてはと留意して、「よろしく」と笑顔を向けた。

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