華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
セイディーレに出会わなかったら、愛することの喜びを知らないまま結婚していたに違いない。

たとえ偽りでも、恋人気分を味わわせてくれたことも、今となってはいい思い出だし、感謝している。

欲を言えば、本当に愛されてみたかったけどな。


「愛する人に愛してもらえたら、どれだけ幸せなんだろう……」


こんなことを願うのは贅沢だとわかっている。微笑みに切なさを滲ませて、私はゆっくり目線を落とした。

その数秒後、ぐっと腕を掴まれたかと思うと、突然セイディーレがどこかに向かって歩き出す。

ほぼ同時に玄関のドアが開き、菜園から戻ってきたアンジェとエトワルくんが姿を現した。しかし、私たちを見てキョトンとするふたりには目もくれず、セイディーレは私を引っ張っていく。


「セイディーレ!?」


呼びかけてもなにも応えない彼は、階段を上って廊下を進み、ある一室のドアを開ける。セイディーレの部屋だ。

そこへ引き込まれ、ドアが閉まった瞬間、驚く間もなく唇を塞がれた。


「っ、んん……!」


片手で後頭部を支えられ、何度も角度を変えて交わされる激しいキス。

その荒々しさと甘さにクラクラして、私はなにも考えられずに彼の胸の辺りの服を掴むだけだった。

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