華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
「これだけは覚えていてください。どの国の姫になろうと、どんな身分であろうと、私はずっとあなたの味方です」


悪魔の件はすぐに頭の隅に追いやられ、胸の奥がじんわりと温かくなる。

その言葉の裏には複雑な想いが隠れているのかもしれないけれど、こんなにも私を支えてくれること、本当に嬉しいよ。


「……ありがとう、セアリエ」


気の利いたことはなにも言えなかったものの、心から感謝を述べただけで、彼は穏やかに微笑んでくれた。

だいぶ日が暮れ、「そろそろ行きましょう」と歩きだすセアリエに続いて、私も練習場をあとにする。

彼の逞しい背中を眺め、思いを巡らせる。


叶わない想いを抱く辛さは、きっと経験しないほうがいいのだろう。

心配しなくても、私には無縁のものだ。だって、王太子以外に誰かを愛することなど──。

そこまで考えたとき、頭上の茜色の空を、バサバサと翼を羽ばたかせてカラスが二羽飛んでいった。

反射的に振り仰ぎ、あの人を思い起こさせる黒いそれを目で追いながら思う。

もしも、王太子が運命の相手ではなかったとしたら。

誰かを愛する幸せや喜びを私に教えてくれる人は、一体誰なのだろうか、と。




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