アフタースクールラヴストーリー
副崎の叫び声が空を切り裂く。
先生達はその声に圧倒され、足を止めた。
「どうして久田先生を好きになっちゃいけないの⁉ 好きな人とどこかへ出かけて何がいけないの⁉ 好きな人に告白したら何が悪いの⁉ 私は今まで、やるべきことは真面目にやってきたつもり。さぼったことなんて一度もない。久田先生を好きになったのだって、生徒会の仕事に真剣に取り組んでいる内にそうなったの。何もやましいことなんてない。それなのになんで、周りからとやかく言われないといけないの⁉」
誰の介入も許さない勢いで、副崎は言う。
一人の少女の悲痛な訴えに、その場にいた全員が否定も肯定もできず、複雑な表情を浮かべるばかりだ。
「副崎……」
僕は目の前の孤独な少女を抱きしめてやりたかったが、手の震えが止まらず、その場に立ち竦んでしまう。
すると後ろから、憐憫にかげった面持ちの御手洗先生が副崎に歩み寄り、彼女の肩にやすやすと手を乗せた。
「副崎、君の気持ちは十分理解できる。もしかしたら、君の言うことは間違ってないのかもしれない。けどな、世の中には正しいと思っても、それが通らないことは山ほどある。今回だって、君が久田先生を好きになったことは何も恥ずべきことではない。寧ろ素晴らしいことだと僕は思う。だが教師と生徒と恋愛というのは、世間的に認められていないんだ。だから学校としても許して放っておくわけにはいかないし、君自身も傷を負うことになってしまう。現に副崎は、周りから悪く言われて傷ついただろ。教師と生徒の恋愛が良くないことを皆知っているから、副崎が普段頑張っていても今回みたいに誤解される。誰が悪いとかじゃない。教師と生徒の恋愛に批判的な見方がされている以上、仕方がないんだ」
そう言い終えた御手洗先生は、物憂げな表情で海を見つめる。
「そんなの、誰が決めんたんですか……?」
「誰でもない。誰でもないけど、決まっていることなんだよ」
「納得いきません! 好きな人を好きだと言えない、恋愛できないなんておかしいじゃないですか!」
副崎が語気を荒げる。
同時に、静かだった波の音もじんわりと激しくなる。
御手洗先生は負けじと、今度は口調を強めて言った。
「しかしそれを受け入れなくてはならないんだ! おかしいと思うこと、理不尽だと思うことを受け入れて前に進む。それこそが成長する、社会で生きていくということなんだ!」
「その通りだ」
僕らの背後から、太く威圧感のある声が響く。
振り返るとそこには、一人の見知らぬ男性が立っていた。