副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
 私は写真集を強く胸に抱くと、ケースを引いてリビングへと向かった。

 そしてリビングにあるガラステーブルの上にその写真集とアロマキャンドルを置いて、最後に書いたばかりのメモを隣に添える。

「臆病で、ごめんなさい……」

 震える声で呟くと、その声は広すぎる部屋に静かに消えた。

 マンションを出ると冷たい雨が音もなく降っていて、空は紫に濁っている。

 それが今の私の心を映し出しているようで、呼吸が重くなった。

 ……そういえば副社長と出会ったあの日も、雨だった。

 離れようとしているのに、すぐに私の頭の中は簡単に彼に占められてしまう。

 情けなさに顔を歪めると、私はタクシーに乗り込んで、空に向かって伸びる大きな建物が見えなくなるまで眺め続けた。
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