副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
「あれは、三浦。――うちの人事部だ」

「あ、あの人が、人事部の人?」

 頭の中がグチャグチャで、一体なにから考えればいいのかわからない。

 けれど一つだけわかっているのは、これが彼らに、いや、もしかすると彼に仕組まれたことだということだ。

「荷物のご確認をお願い致します」

 今にも薄れてしまいそうになる意識を必死に保っていると、彼は当たり前のように、荷物を運び終えた引越し業者の対応をしている。

 そして私の代わりに躊躇うことなくサインをした彼は、一列に並んで爽やかに頭を下げる引越し業者たちをお辞儀をしながら見送った。

 目の前の状況がまだ理解出来なくて、私は魂が抜けたようにその場に立ち尽くす。

「いつまでそうしてるんだ?」

 背後にいる彼の声が降ってきて、胸が一際大きく高鳴った。

「……こ、困ります!」

 慌てて彼との距離を取ると、私は精一杯の震え声を上げる。

「じゃあ中にある君の荷物は、全部いらないのか?」

 彼は無表情で小首を傾げながら、優しく囁いた。

 ……そんなの、ズルい。
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