天使と悪魔の子

ここで光魔法を使ってしまったら、宙は大丈夫かもしれないけど他の仲間にも被害が行ってしまう。

私は必死に頭を動かす。

『“私の言葉は魔法”』

そうだ

私の言葉は全て、魔法になる。

『“私は誰よりも早い”』

私は剣を想像して構えた。

ーカキンッ

宙の目の前すれすれでラミアの剣を受け止める。

私は雷よりも速く

鋭い

「美影!?」

「精神魔法か」

ラミアが面倒臭そうに後ろに退く。

精神魔法がなんだかしらないが、時間は稼ごう。

「うっああああ!!!」

そう思った瞬間、シェリーの叫び声が聞こえた。

思わず視線をやるがその隙をつかれて私は地面に叩きつけられる。

『っあ』

骨が何本かやられたらしい。

息ができない。

「美影!!!」

「おっと動くなよ」

私の首に長く大きな手が当てられる。

「こんな細い首、一瞬だ。」

シェリーも奴らに捕えられて床に横たえている。

一気に形成が変わって窮地に追い込まれた。

なんとか逃げようとうねるが全く逃れられない。

「“召喚獣シャロット”」

シェラールさんの声が聞こえた瞬間、私はいつの間にか獣の手に握られていた。

「なっ、怪盗猫かっ」

怪盗猫……?

私はそのまま運ばれてシェラールさんの元へ行く。

宙も夕紀もそれに合わせてミリーナさんの所へ行った。

「どいつもこいつも、邪魔ばかりしやがる。」

ラミアの目が血走った。

全員が、その様子を見て恐怖を感じたに違いない。

「使用人ごときが」

ードサッ

なっ……

誰も反応出来なかった

それほどまでに速く

一瞬で、気付いた時にはもう遅かった。

「シェラールっ!!!」

レリアスが騎士達を押し退けてシェラールさんの元へ降り立つ。

「レリアス……様」

召喚獣は消え去り、血溜まりに横たえるシェラールさんをレリアスは抱えた。

「しっかりしろ!!」

「レリアス様、私は幸せ者です。」

「何を言っている」

「私は、前の主人に目を潰されてから、いや、生まれてから一度も、嬉しいことなどなかった。
でも、レリアス様が……」

「喋るな!傷に触るだろう」

その様子を、皆が固唾を飲んで見守る。

もう、だめだ

誰もがそう悟った。

先程の一瞬でラミアにシェラールさんが切り付けられ、出血が止まらない。

極めて老体で、回復もままならなかった。

私が癒しの術を施したとしても、間に合わないだろう。

それほどに息は切れ切れとしている。

「こうして愛してくださる主人がいる。これほどまでに使用人にとって嬉しいことはございません。」

「くっ…」

レリアスの瞳から涙が零れてシェラールさんの頬を濡らす。

「ありがとうございました。」

その言葉を最後に、彼は息を引き取った。

「くっ、そ」

レリアスはシェラールさんをシェリーに託してラミアと向き合う。

「たかがひとりやふたり、死んだって同じだ。」

「うああああ!!!」

レリアスの叫び声と同時に地面が揺れる。

「かはっ」

ルリが騎士に攻撃をくらって夕紀に向かって落ちてきた。

ーガンッ!!

あまりの勢いに受け止めそこねて塔の一部は粉々に吹き飛んだ。

「すみま、せ」

「気にするな」

ついに、この場で闘っているのはレリアスとラミアだけになった。

「宙」

夕紀が振り返って私の頭に手を添えた。

「美影を頼んだ。」

『ゆ「じゃあな」』

夕紀は私に背を向けてレリアスに加勢する。

どうみたって、ラミアが優勢。

夕紀が加わってもそれは変わらないだろう。

『夕紀っ!!レリアスっ!!』

「行け!!」

ルリとシェリーがボロボロになって私と宙を守るように立った。

「ご武運を」

綺麗に笑ったルリ

不安が現実になった。

「宙、美影ちゃん!!」

ミリーナさんが叫んだと同時にふたりで振り返る。

「ヒーローも悪くないわね。」

ふっと笑った彼女

その笑顔はとても美しい

「どうか、生き延びて」

ミリーナさんの周りを飛んでいた夢鳥が私達に向かって飛んでくる。

「“転送”っ!!!」

ミリーナさんの声と青白い光が私達を包んだ。

自然と宙と手を繋いで目を閉じる。

「ミリーナアアア!!!!」

ラミアの叫び声が聞こえた瞬間

光に飲み込まれた。
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