天使と悪魔の子
4章 愛する者の光

1節 “空”









少しの刺激臭に、私は目を覚ました。

ここは……

体を動かすと、怠くて背中が少し痛んだ。

そのままベッドから足を下ろして立とうとするが、目眩がして床に尻もちをつく。

この感覚は…貧血

周りを見渡すと、ここは翠の神殿で、エリーゼさんが用意してくれた私の部屋らしい。

自分の息遣いがわかるほど、静かだった。

窓から外を覗いても、いつもより人気がない。

私は慣れた仕草でそっと隣の部屋をノックする。

『宙……?』

返事がないから、申し訳ないと思いつつ中を確認した。

ーガチャ

宙……

貧血なんか忘れて、私の足は自然と彼の部屋へ勢いよく飛び込む。

どこを探しても

彼の姿は見つからない。

“美影”

『宙っ!』

声が聞こえたような気がして振り返ってみるけど、やっぱり誰もいない。

私はぼんやりとしたものがくっきりとしたように脳に彼の背中が浮かんだ。

『いやっ……宙、どうして……』

急に寂しさに襲われて一人で肩を抱えた。

カタカタと歯が鳴って、呼吸が荒くなる。

そんな様子を、通りかかったフレンチさんが見つけた。

「アリシア…?」

『は……ハア、はぁっっ』

「しっかりしろ!!」

フレンチさんが私の背中を撫でてくれる。

でも、心に空いた穴は、そう簡単には塞がらなかった。

『そら、…宙がいないの…っ』

震えの収まらない私を、彼女もまた震えた手で抱き寄せる。

「すまない……すまなかった!!!」

騒ぎを聞き付けたエルも、部屋の前で立ち竦んでいる。

皆が悪いわけじゃない

宙の様子がいつもの違うことくらい

気が付いていた

それなのに私は……

何度も何度も床を殴るけど、天使達と違って体が丈夫じゃない私の手はみるみる赤くなっていく。

「アリシア、やめて!」

エルが私の手を掴むと、長い睫毛を伏せた。

「僕が油断して、ミリーナが飛び出すの止められなかった。」

『やめて……!後悔しても、何も変わらないっ……私が悲しいのは、みんなのせいじゃない。』

自分の不甲斐なさと、宙の不器用な愛情表現。

そのふたつに、どうしようもなく腹が立つ。

宙は私の為って言ったけど、全然私の気持ちをわかってくれてないじゃない……。

重い沈黙の中、私はまだ震える肩を抱え込んだ。

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