天使と悪魔の子

2節 “印”


どうすればよかったんだろう。

今までの計画は……完璧だったはずなのに。

まさかマーシュ隊長に乗り移っていたなんて思いもしなかった。

呆然と床に崩れ落ちた美影を見つめる。

でも、もう美影じゃない。

少し身体が震えたかと思うと、

奴は立ち上がった。

白く透き通った、でも少し違う色の肌

肩ほどでストロベリーブロンドの神秘的な髪

どんな瞳よりも綺麗だと思った黄金の瞳

いつもは愛らしく、でも不器用に笑いかけてくれたのに……

大好きな人の顔で、

そんな風に笑わないでくれ。

「素晴らしい…全身に力が漲ってくる。

でもなんだ、何かが足りない。」

彼女の体なのに、鈴のような声が異質のように感じる。

それに耐えかねて、俺はエリーゼ達の方へ移動した。

今ここにいてもなにもできない

自分の無力さを痛感しながら、

下唇を噛み締める。

「待て」

感情の読めない声に振り返ると、奴は右手に魔力を溜め込んでこちらに飛ばしてきた。

「っ!!」

地面を転がって避けるも、更に追い討ちのようにこちらへ向かってくる。

それを受け止めてそのまま距離を置いた。

俺が彼女の体を傷つけられるはずがないことを知っているんだ。

熟、卑怯でいつまでも成長することのない俺の肉親は自らの力に陶酔している。

「……人間の血がまだ残っているのか、

体が弱い。」

なにやらボソボソと言っているが、正直頭が混乱していてついていかない。

美影がいる

そう錯覚してしまいそうで恐ろしかった



だめだな俺


美影がいなかったら


なんにもできないみたいじゃん



ロゼオを見すぎていたせいか、注意力が散漫になっていた。

気付いた時にはもう遅くて、ラミアに後ろから肩に切り掛かられた。

ーグッ

「うっ!!??」

そのまま壁に追いやられて身体を打ち付ける。

「この前のお前は、強かったのにな。」

そうだ、アルベールなら…

でも“アイツ”になったら、自分が自分でなくなるみたいで怖くなるんだ。

ラミアの瞳は心做しか“逃げろ”と言っているようだった。

そんなわけ、ないか

電気を帯びているその剣で全身がピリピリとしてきた。

このままじゃ、相当やばい

そう思った時、肩から剣が抜かれた。

そのまま遥か下の大理石の地面に落下する。

「しっかり捕まってください」

「……シュファルツ、さん?」

「“転送”」

落下した直後に即、エリーゼさんを抱えたシュファルツさんに回収されて光に包まれる。

最後に見えた美影の表情を、俺は忘れない。

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