struck symphony
料理の仕上げに夢中になるなかで、


ふと
視線を感じて、恵倫子は、その方を見た。


「あっ、香大さんっ、おはようございますっ」

「おはようございます」

「すみませんっ、起こしちゃいましたか?」

「いえ。
目が覚めて、楽しそうだなぁと 見蕩れてました」

「ぇえ?、私、ずっと見られてたんですか?」

思わず赤面する、恵倫子。


「香大さんのいじわる、
そんな見ないで 声を掛けてくださいよぉ」


恥ずかしそうにする恵倫子を
陽音は、明るく笑いながら見つめた。


“もぉ… そんなに見つめられたら…”


ますます赤面し、
タジタジになる恵倫子を見て、

初めて見たときの
洗練された雰囲気とのギャップに
こんな一面もあるんだなぁ と、

陽音は、恵倫子の可愛らしさを感じ、
愛しさが増した。



「恵倫子さんっ」

「あっはい」

「今日は、何か予定はありますか?」

「え、いいえ。とくには」

「なら、一緒に お出掛けしましょう」

「あっ、香大さん、今日はオフなんですか?」

「はい」

「貴重なオフに、いいんですか?」

「はい。
ゆらちゃんを連れて、
僕は、恵倫子さんとデートがしたい」



“デート…”



もう 何年してないだろう…

響を身籠ってから…だから、もうすぐ…5年





“5年 かぁ…

男の人と デートなんて………久しぶり…

………できるかな…
…香大さんに恥ずかしくなく ちゃんと 普通に…”




言葉にならない程の 嬉しい言葉なのに、
自分自身の不安さで
恵倫子は、表情が曇りそうになる…


そんな恵倫子を窺いながら、陽音は、尋ねた。



「僕は、
恵倫子さんと いろんな事を楽しみたいな。
恵倫子さんは?」



“あっ…”



陽音の言葉に、ハッとする。

即答に、想いは ひとつだけ。



「私もです」

「良かった」



「香大さんと…同じ…、

…いいえ、多分、香大さんよりも

私の方が もっと… そうしたい…」



急に 潤んだ瞳で 想いを馳せる恵倫子に、
はにかんだ笑顔で そっと微笑みながら、
陽音も、熱く心を震わせた。











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