struck symphony
付き合いはじめて、あっという間の 三ヶ月。





ある日の昼下がり ー



平日だが 夏休みという事もあって、
外は、近所の子ども達の声で 賑やか。

年中さんの響も、夏休み。



恵倫子と 穏やかな昼食を終え、
最近 夢中になっている、お絵描き迷路で遊んでいる。



恵倫子は、響の遊び相手になる事も しばしば。

仕事や子育てに奮闘する合間に、全力で一緒に遊ぶ。


追い駆けっこや縄跳び、しりとり遊びをしたり、
一緒に歌ったり、
響が、いつの間にか覚えていた英語の掛け合いをしたり。

響は、ダンスも大好き。


立っちが出来るようになった頃、
まだ ダンスというものを
見たことがなく 知らないうちにも、

たまたま鳴った音楽に
リズムに乗って 体が動いたのか、
リズミカルに
自分の思い付くままに 踊りはじめた。



恵倫子は、
人間の先天性というものを見たようで、
感動した。


それから、
よく家では、親子で一緒に踊りまくっている。
ふたりとも、とっても楽しそうに!






洗濯機の終了の音が鳴り、
恵倫子は、干していた布団を取り込み、
洗濯物を干しはじめた。


叩いて干す、パンパン という音に気付いた響は、
すたすたと洗濯かごへと歩み寄り、
かごの中から 洗濯物を引っ張り取って、
恵倫子に差し出した。


こうやって よく お手伝いをする。
状況判断に優れているのか、何も言っていないのに
自分から動く、響。


人が何をやっているのか よく見てる事も多く、
2歳になったばかりの時には、
いつの間に 覚えたのか、

洗濯ネットのファスナーを
2歳の響にとっては なかなか開けづらいだろうに

頑張って 黙々と地道に開けて、
中に入っている洗濯物を
恵倫子へと差し出した事もあった。



そうやって、恵倫子のお手伝いをしていると、
「ゆらちゃ~ん!遊ぼ~」 と、
近所の子ども達が誘いに来た。

手を止めて振り向き、
そして、恵倫子の方へと視線を戻し、窺う。


「行ってらっしゃい。夜ご飯には、呼ぶからね」

「うん!」

響は、嬉しそうに返事をしながら
いつも遊ぶ 目の前の公園へと
友達たちと駆けて行った。






洗濯物を干し終えて、ホッとひといき。

陽音に貰った モカをドリップ。


立ち込める香りを ひと口含もうとした
そのとき、

恵倫子の携帯電話が鳴った。


「んん?」

口元を拭い、携帯電話を置いてあるラックに歩み寄る。
着信画面を見ると、陽音からだった。



「もしもし、陽音さん?」

「あぁ。今、忙しくない?電話、大丈夫?」

「うん。洗濯物を干し終えて、
陽音さんから頂いたコーヒーで
ひといきついてたとこ」

「そっか」

「うん」



今日は 陽音は仕事で、
約束もしておらず 会えないと思っていたので、
嬉しい気持ちながら 珍しい時間帯の電話に、
恵倫子は、どうしたのだろうと思いながら……



「今日は、雑誌の取材とミーティングって言ってたね。
お仕事の途中で電話くれたの?」

「いや、終わったんだ。ミーティングが、
早く終わってね。
だから、今日の仕事は、終わり」

「そうなんだ。お疲れ様です」


「ありがとう。

それで、恵倫子っ」


「ん?」



「会いたい」



“あ…”


また……不意打ち。

出逢ったときと同じ。

突然に ドキドキさせられる…

胸が キュンとなる…



「今から、会えるか?」

「うん」

「何時に 迎えに行ったらいいかな。
着替えたり、用意があるだろ?
ゆらちゃんの身支度も」


陽音の声を聴いていて、
ふと、
恵倫子は、違和感を感じた。


“…?… なんだか いつもと…
…疲れてる?…”


出逢ってから、
オフの日も いつも一緒に過ごしてきた。

お互い、愉しい想いを交わしてきたが、

疲れは取れないのではないだろうか…。



さっきまで仕事だった陽音に
迎えに来て貰って、またここから出掛けるのは、
ずっと運転することにもなるし、負担をかけてしまう。


陽音の身に何かあったら…
もしも倒れたりでもしたら… …大変…



恵倫子は、
陽音が来てくれたら、そのまま家で
ゆっくりして貰った方がいいのでは…と思った。



「陽音さんっ」

「ん?」


「うちに、来ませんか?」



まだ一度も行ったことのない、恵倫子の自宅。

なのに、
そんなことを言う恵倫子に 驚きながら、
初めて恵倫子の家に行く日が、こんなふうに
不意に訪れるのか…と、陽音は、不思議さを感じた。



恵倫子は初めて言ったが、
今まで思わなかったわけではない。


家まで送って貰う度に、
『良かったら、寄って行きませんか?』と、
幾度と思った。

が…



決して、自分から
『家に行ってもいい?』などと言わない、
いつも紳士的な陽音に、恵倫子は、
言うタイミングを掴めず、言葉を呑んできたのだった。



「行っても… いいの?」


珍しく聴いた、陽音の 緊張してるかのような…声。


恵倫子の方も、
この家に男性を呼ぶのは、初めてなことで…

でも、
それが 返って反動となり…
恵倫子の心に 火がついた…



「陽音さん…早く会いたい……来て…」


「わかった。今から行く」


「うん。待ってる」




付き合っているのに 今更…

ピアニスト香大陽音が 家に来る… と…




恵倫子の心は 震え…
胸が 高まった…



ーーー






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