struck symphony
恵倫子と陽音の 人知れぬ 交際が、はじまった。



陽音は、人目に触れる場所でも
連れて行きたい場所があれば、所構わず、
恵倫子と響を 連れて出掛けた。

そんな 陽音の厚意が、素直に嬉しかった。


けれど、
有名ピアニストと
ファンでもある一般女性 という
この恋愛、


そして、

出逢ってから 陽音は、
「会えるなら 僅かな時間でも 会いたい…」 と、

仕事の合間でも
会って、一緒にランチや、
オフの日までも 響も一緒に過ごしてくれる日々に…



恵倫子は、
陽音を疲れさせたくない、
仕事の妨げもしたくない、という想いも抱いていた。




そんな恵倫子の想いを知ってか 知らぬか、
陽音らしい性格故か、



会ったときの陽音は、
仕事の合間でも
忙しさを微塵も感じさせることなく
自然な感じで、

多忙な合間のひとときを 癒し愉しんでいるようで
いつも 優雅であった。






付き合いはじめたばかりの ふたり。


陽音は、
一目惚れをした 恵倫子のことを
何が好きなのか、何に喜ぶのか、
まだ知らない。


恵倫子の方も、ファンとはいえ、
ピアニストとしての陽音を知ってるだけで、
ひとりの男性として、何が好きなのか、
どんなことで喜ぶのか、知らない。



ふたりは、お互いに もっと もっと
相手のことを知りたい と、
沢山の質問を投げ掛け、沢山の会話をした。



ーー



「香大さん、
せっかくのオフの日も
いつも一緒に過ごしてくださって…、
ゆっくりと休みたい日もあるでしょ?

身体、休めて。
心配ですから、無理しないでください」



「無理なんて、全くしてないです。
恵倫子さんに出逢えて、毎日が 楽しい」




「香大さん…


私の方こそ、
香大さんに出逢えて、毎日が 楽しい。

楽しすぎて…

私も 娘も、
行ったことのない場所や 知らない所へ
香大さんに たくさん連れて行って貰えて、
初めての体験ばかりで…
その体験を 香大さんと共有してるってことに、
日々、
興奮しっぱなしなんです。

香大さんに出逢えた あの瞬間だけでも、
まさに 特別なのに……って…、
…、
私が、いつも思っていることです…」





陽音は、
恵倫子と響を 自分が知っている場所や
自分がよく行くお店 など、
いろんな場所へ連れて行った。


これまで 自分が どんなふうに過ごしてきたか、
まずは 自分のことを知ってほしい
との想いから…。



恵倫子もまた、
ブログでよく見るランチは 何処なのだろう…

他愛もないことでも 知りたいし、
自分も 知ってほしいし…

今度は一緒に行きたい、共有したい…
と想い…。



知りたい… 感じたい… と、寄り添った。





陽音が連れて行ってくれる世界は、

シングルマザーの親子生活で、節約し、
最低限の幸せを維持してきた恵倫子にとって、
何もかもが初めてで、新鮮で……






陽音が、
仕事の合間に 休息のひとときを過ごした、カフェ。

仕事帰りに立ち寄る、図書館。

好みのファッションが揃う、ブティックビル。

お気に入りの レンタルショップ。

行きつけの美容室。

専属ディーラーの車屋、よく行くガソリンスタンド
等々。



陽音のブログで見たことのある場所には、
恵倫子は、感動しながら感嘆した。


恵倫子の反応や仕草のひとつひとつが
なんとも好みで 愛らしく
陽音は、益々 好きになるばかりだった。




そして、

日常から離れた、特別な場所にも…




360°見渡せる、タワー展望台

夜景の綺麗な場所へ、ドライブ

落ち着けて 癒される、お城や温泉巡り

縁起の良い、パワースポット

共に楽しめる、テーマパーク

特別な料理の コースレストラン


なかでも、


オーシャンフロント シアターテラスレストランは、
海を眺め 波の音を聴きながら、会食しながら観れるという
新感覚な映画館。

開放的で 子連れでも気兼ねなく楽しめ、
お互いの 映画好きという趣味にもぴったりで、

初めて味わう場所で
生まれて初めて スクリーンで映画を観た響は、
大画面の迫力や 開放的な景色や雰囲気に 大興奮で、
それはそれは とても嬉しそうで、

提案してくれた陽音に、恵倫子は、
感謝の気持ちで いっぱいになった。







迫力のスクリーン…

各々のテーブルで繰り広げられる、快宴な愉声。

潮風が気持ち良く 快然たる 波の音…





そんな 心地良い雰囲気のなかで、
お腹もいっぱいになったよう…

響は、
食べながら、コクりコクり…
椅子に座ったまま いつの間にか 眠ってしまっていた。


恵倫子は、響の口元や手を拭いてあげると、
優しく抱きかかえ、ソファーに寝かせた。



そして…



光景の色の変化から
視線を移した 広がる景色に、
感嘆の吐息を洩らしながら、ゆっくりと立ち上がる。



塀から臨む、雄大な海辺の風景…


熱く… 沈みゆく 広大な太陽…





「わぁ~……きれい…」



心地良い潮風に、恵倫子の髪が靡く。


陽音も、
恵倫子の隣に並んで
共に 海辺の景色を眺める。






テラスも…

だんだんとオレンジへと染められて…

目の前に広がる 幻想的な サンセット…






同じ方向を眺める ふたりは、
橙光に染められ、幸潮な そよ風に吹かれた…







「香大さん…、 出逢ってくれて…ありがとう…」

「どうしたんですか、急に…」

「言いたくなったんです。
この想いで… 溢れそうだから…」


「あぁ…、…。

言いたかった言葉を
先に言われちゃいました…」



陽音は、照れ笑いを浮かべながら、
恵倫子を 優しく抱き寄せた。





「僕こそ…

恵倫子… 出逢ってくれて…ありがとう」



「え… …香大さん……今……」


「ん?」


「恵倫子…って…、言ってくれました?…」


「はい。言いましたよ。

付き合ってるのに、付き合う前と同じ距離感は、
嫌だなぁ と…」


「はい…。そうですね…」




陽音と同じ気持ちながらも、
急な不意打ちに、

恵倫子は、
照れや恥ずかしさで
陽音の胸に 顔を埋めた。


けれど、
それはそれで、
陽音の匂いを 感じて…
恵倫子の体は、火照ってゆく…





「だから…
僕のことも 香大さん ではなく、
名前で 呼んでほしい。

いつまで 苗字で呼ぶつもりですか?…」





陽音に、耳元で囁かれ…
恵倫子の火照りが、どんどん増してゆく。






“ダメ… そんな… 愛しくされたら……私…”








「恵倫子?…」




再び 耳元で囁かれて…








「…陽音…さん……」




恵倫子は、吐息混じりに
陽音に 抱きついた。




陽音も 強く… 優しく… 恵倫子を抱きしめる。



そして、
渾身の想いで、恵倫子に告げた…









「…愛してる…」






抱きしめられ… 愛をも 耳元で囁かれ…



恵倫子は、もう… 蕩けてしまいそうだった…。






……



陽音といると、快感の境地… 夢心地…








まるで、
王子様が お姫さまにしてくれる… 夢の世界…





ーーー







< 23 / 71 >

この作品をシェア

pagetop