その恋、記憶にございませんっ!
 



「唯っ。
 大丈夫かっ?」

 本田が去ってしばらくして、蘇芳が現場に駆けつけてきた。

 近くの四つ角に走り去る黒い車が見えたから、きっと本田が乗せてきたのだろう。

 ……何故、去る、本田さん、と思いながら、それを見送っていると、
「この狼藉者がっ。
 唯になにをするっ」
と蘇芳が翔太を叱ろうとするので、

「いや、後半、なにをするっ、だったのは、貴方の部下なんですけど」
と唯は言った。

 既に疲れ、翔太と二人して階段に座り込んでいた。

「なんで、なかなか来ないんですか、もう~っ」

「腹が減った」

「疲れましたっ」
と唯の腕をつかんだまま、一緒に座り込んでいる翔太と交互に叫ぶ。

「帰宅してくる人たちに、どうしたのって目で見られるたびに、いえ、なんでもありませんって顔して、ペコペコ頭下げて大変だったんですよっ」
と訴えると、蘇芳は、

「いや、すまん。
 ちょっと新幹線で隣の県まで出張してたんだ」
と言ってくる。
< 135 / 266 >

この作品をシェア

pagetop