だから、言ったんだ
だから、言ってるじゃん




「もう、終わりにしよう」




ああ、またか。


私は目の前の男を仰ぎ見た。

柔らかい茶髪の、優しい目元の彼。
優しくて、
暖かい、
彼が好きだった。



「りこの事好きだけど、やっぱり理解出来ない」



悲しそうに、彼の眉は下がった。

その表情に、私も泣きそうになった。



「…ごめん、俺が悪いんだ。我慢出来ない俺が悪い。…ごめんな」



私は黙って首を横に振った。



きっと、言いたい事は山ほどあるんだろう。

“理解できない”と言ったさっきの言葉が、
彼にとって精一杯の本音だったんだ。


こんな時まで優しいのか。

こんな彼を、傷付けてしまったのか。




「…最後に、聞かせてほしい。
りこは、俺の事好きだったんだよね?
あいつと、本当に浮気してないんだよね?
信じて、いいんだよね…?」


「先輩…」


言葉が出ず、今度は精一杯首を縦に振った。

嘘なんかじゃないって、
そう伝えたい。



涙が溢れそうな目で、彼を見た。



彼は、安心したように笑った。

私が好きな、ふんわり、包み込む様な笑顔。



もう、この笑顔を私に向けられることは無いんだと、
そう思うと、こぼれ落ちない様にしていた涙がぽろりと目から落ちていった。


「っ…ごめんなさい、私が泣いちゃ駄目なのに…っ」


必死に拭おうとするも、
涙は栓を抜いた様に溢れて止まらない。



「りこ…」


ふわり、と彼の匂いに包まれる。

優しく私の肩を抱いた彼が、こんなにも好きなのに。



私は、今日、
半年間付き合っていた彼に別れを告げられた。




ごめん、と小さく呟く彼に、
私は、腕の中で必死に首を振った。



何度、
繰り返したか分からない。



私はまた、同じ過ちを犯したのだ。


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