王子様の溺愛【完】※番外編更新中
「お礼それでいいんですか……?」


縁は依人の申し出に驚いているのか何度も瞳をぱちぱちと瞬きを繰り返す。
いつの間にか頬に赤みが指している。


「うん、それがいい」

「っ」


可愛い、と言う本音を噛み殺して、指先で頬を撫でると、縁は頬を更に赤く染めてまぶたをきつく閉ざした。


「明日の昼休み、旧校舎の資料室横の空き教室の前でね」


縁は無言で何度も小さく頷いた。


「また明日ね」


依人はぽんと縁の頭を撫でると、颯爽とその場を後にした。





翌日の昼休み。


「すみません、お待たせしました……」


指定した場所の前で待っていると、心地いいソプラノが耳に入った。
ぎゅっとランチトートを胸に抱えながら見上げる姿に、胸が痛くなる。


(それは計算……?)


「俺もさっき来たばかりだよ」


依人は平静を装ってスライド式のドアを開けると、どうぞと促すように縁を先に入れた。


教室で友人と食べることもあるが、たまに静かに過ごしたい時はここを利用していた。
初めて足を踏み入れた時は埃だらけだった部屋だが、定期的に掃除をしているので今では綺麗に保たれている。


隅に固まっている机を二つ真ん中まで運んでくっつけると、そこに腰をおろした。


「いただきます」


二人は一緒に手を合わせて言うと食事を始めた。


依人は不躾かと思いながらもちらりと縁の食べている弁当を盗み見る。


小さな二段の弁当箱があり、一段は小さな梅干しが乗った白いご飯、もう一段は卵焼き、アスパラベーコン、里芋の煮っころがし全て手作りと思しき美味しそうなおかずがあった。


(佐藤さんのお弁当美味しそう……)


過去に貰い物のフォンダンショコラで腹を壊した経緯があって人の手作りが苦手だった依人だが、何故か縁の弁当を見て食欲がそそられた。


(彼氏になる奴が羨ましい)


登校途中コンビニで買ってきたサンドイッチを口にしながら、そんなことを思っていた。


食事中、どちらも話しかけることなく静かだったが、依人は縁といる時間が心地いいと感じていた。


「ごちそうさまでした」


縁が食べ終わるのを見計らうと、一緒に手を合わせる。


「佐藤さん、これあげるよ」


依人は空き教室へ向かう途中、自動販売機で買った紙パックの黒ごまラテを買った。


「いいんですか?」


縁は驚いて目を丸くさせると、慌ててランチトートから黒猫の絵が描かれた小さながま口財布を取り出す。


「お金はいいよ」

「だめですっ。ただでさえ面倒かけちゃったのに、甘えられませんっ」


律儀な縁は強引に百円玉を依人に握らせた。
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