屋上のあいつ
あれから一週間。
 正直言うと、何度も何度も自問自答を繰り返していた。あの時はとっさに幽霊だ、と判断してしまったが、本当にあれは幽霊だったのだろうか。幽霊って、ばあちゃんの話を聞く限り、もっと透けたような状態や足がなかったり首がなかったり、どこか欠けた外見をしているものだと思ってた。しかし、彼は一緒に屋上に上がった友人たちと何ら変わりない外見をしていたのだ。ただ、唯一おかしな所は俺以外にはどうやら見えていなかったらしいということだけで。あんなにもはっきりと見えているものが、ほかのやつらには見えないことが不思議だった。
もしかしたら、見間違いだったのかもしれない。
 日を追うごとに、そんな気持ちが強くなっていく。ひとりぼっちの状況が、こんなにも不安定であるとは思いもしなかった。きっと、何も見なかったんだ、と忘れ去ってしまうことが一番の解決策なのだとわかっていた。母さんも兄ちゃんも、気にしないのが一番だって言ってたし。そうすれば何をしていても離れてくれないこのモヤモヤとも、ふってわいたような不可解な存在とも、きれいさっぱり縁がきれるのだ。しかし、臍のあたりからむくむくと勝手に湧き上がる好奇心を、抑えることができるはずもなく。
 幽霊かどうか、もう一度自分の目で確かめてみればよい。
 気がつけばあの日以来俺は目の端に、再びあの少年がうつるような気がして、五感をフルに使い彼をさがしていた。
「幽霊見えるのっち、第六感やったっけ?」
「は」
 升田が間抜けな声をだす。
「オバケだよ、オバケ! 第六感だったよな?」
五感をフルに使ってたのって、無駄だったのかも。幽霊って第六感でとらえるものだって、聞いたことあるような気がする。升田はいかにも面白そうなものを見つけたとばかりに、にっと口元を上げ、目を細めた。
「何? 俊弥君幽霊みちゃったとか?」
「え? あ、うーん……どうなんやろ……」
あれを、あの少年を幽霊とは自分では言ったものの、他人の口をかりると違うような気がする。
「えっ、オバケ? スゴーイ片倉君! 何処で見たん?」
さっきまで横で赤間恵子と話していた森田里美がいきなり会話に加わってきた。眼鏡をかけた、運動部の子だ。少し色素の薄い髪を二つ結びにしている。
「え、何? 森田そういう系好きなん?」
「うち大好き、怖い話とか! で、何、何処で見たん?」
「うん、たぶんやけど、学校」
「学校!? ここの?」
突然、わっと背後からうれしそうな歓声があがる。振り向くと、二人、長野と三井。
「で、片倉、学校のどこで見たん?」
 森田の横から、恵子が身をのりだしてきた。うわ、お前の声大きいから、乗り出してこなくても聞こえるって。ショートカットでつり目がちの彼女とは、けっこう仲がよかったが、気が強いので実はちょっと怖かったりする。
「どこって……」
五人、計十個の目玉から視線をうけ、俺は「はは」と苦笑いした。みんな幽霊の話とか、好きなんだ。「お前バカか」って、升田に言われておしまいかと思ってたけど、これは正直に答えるべきか……。
「屋上だよ。この前升田と孝樹と俺で行ったやん、あん時」
「まじで!? 俺気づかんかった!」
「で、どんなんなん?」
「え? 制服着てて、男やった……かなぁ。俺もよく見えんかったんよ」
「何それ」
「ぱっとみえたっち話っちゃ、ぱっと」
 笑って流そうとした。本当はぱっとなんかではない。確実に、それこそ本物の生徒かと見間違うぐらいに、はっきりと見えた。しかし、ここで話が大きくなってしまったら面倒だ。
「あー……やっぱ噂は本当やったんやな」
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