ここにはいられない


私では杖ほどの支えにもなれないけれど、必死で抱えて大ちゃんをタクシーに乗せた。

「大ちゃん、行き先はどこ?実家?」

後部座席をのぞき込んで聞くと、大ちゃんはじっと私を見つめた後、私の腕を引っ張ってタクシーの中に引きずり込んだ。
酔っているのに酔えていない、心細げな瞳が揺れながら私を見ている。

「菜乃の部屋に行きたい」

ああ、そういうことか、と思った。
途中からそうなるような気はしていた。

それでも迷った。
そんな自分に問いかける。
私は大ちゃんが好きなんでしょう?
何を迷うことがあるの?
里奈とも別れるって言ってるんだから。

小さい頃からずっと一緒でずっと好きだった大ちゃんが、今初めて私を求めている。
それで大ちゃんの心が手に入る気は全然しなかった。
だけど、大ちゃんが求めてくれるのも、今だけだと思った。

私が好きなのは大ちゃんだ。
大ちゃんなんだ。

「━━━━━いいよ。わかった」

迷いを振り切るように、そう答えていた。

ここから私のアパートまではタクシーだとほんの5分。
考え直す暇なんてないくらいあっという間だった。



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