ここにはいられない



大ちゃんとの出会いなんて覚えていない。

幼稚園が一緒だけど、それ以前から公園やイベントで顔を合わせていたから、入園の時にはもう友達だったらしい。
そもそも親同士だって知り合いだ。

この狭い共同体の中で、同じ幼稚園のクラスメイトはほとんど中学校までみんな一緒。
1クラスしかないからクラス替えもない。
同じメンバーの中に、転勤族がやってきてはまた去っていく。
穏やかで、安定していて、少し退屈。

生まれる以前からの付き合いも珍しくないから〈幼馴染〉なんていう言葉は使わない。
土地柄で同じ名字も多いのでみんな名前で呼び合うし、「大地」「菜乃」と先生からも呼ばれていた。


大ちゃんしかいなかった。

田舎は選択肢が少なくて大体が「右か左」「青か赤」そんな感じだけれど、私の恋愛に関してはずっと大ちゃんしかいなかった。

バレンタインデーを覚えたと同時にチョコレートは大ちゃんのために用意したし、「けっこん」する相手も大ちゃんだと信じて疑わなかった。
小学校に上がって、少しずつ色んなことがわかるのと同じペースで、私の大ちゃんへの想いは明確に〈恋〉になっていった。

周りから冷やかされて一瞬ギクシャクしたこともあったけれど、元来気が合った私たちはずっと長いこと〈恋を孕んだ友達〉を続けてきた。

中学生になって、一緒に遊ぶことが減っても。
別々の高校に進学しても。

大ちゃんの前に里奈が現れるまで。




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