契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
あれから数日が経った。
とりあえず住民票を移し、携帯電話の番号を変えた。
今のところ山内からの接触はない。

忍のベッドで眠ったのはあの日だけで、翌日からは自室の布団で休んでいた。

鈴音はカーテンを開け、未だに慣れない高層階から景色を見て、朝日を浴びる。

(今日頑張れば、明日は休みだ。よし)

組んだ両手を真上に伸ばし、「ふー」と深く息を吐いた。着替えを済ませ、キッチンへ向かう。まず先にコーヒーを淹れる用意をし、朝食とお弁当の準備に取りかかった。

キッチンの中は、唯一使い勝手など慣れてきた。
食器棚からカップを二客用意し、フライパンが温まったのを確認して卵液を流し入れた。丁寧に卵を巻いているところに、忍が現れる。

「おはようございます」
「おはよう」

鈴音はフライパンの火を弱め、コーヒーメーカーへ手を伸ばした。計算されたように、ちょうど落ちたコーヒーをカップに注ぐ。そして、ソファに座る忍の前にコーヒーを置いた。

「どうぞ」

忍は毎朝日課のようにタブレットを手にしている。ディスプレイに視線を落としたままではあるが、鈴音に「ありがとう」と口にした。

ここに引っ越しをしてきた翌朝、忍は朝食を受け入れた。だが、それは今後継続されることなんかないのだろうと鈴音は思っていた。

それが、二日目、三日目と日を重ねていっても変わることはなく、今日も忍は鈴音の淹れたコーヒーを当たり前のように口に運んだ。

(……調子狂う)

鈴音は複雑な表情を隠すように踵を返し、忍に背を向けた。キッチンに戻って卵焼きをまな板に移し、黙々と切り分ける。

頭の中は、忍のこと。もっと、ドライな関係になるものだと思っていた。しかし、そんな想像を裏切られ、朝から顔を合わせればきちんと挨拶を交わし、食事まで共にするのが習慣になりつつある。

(まぁでも、存在を無視されるような生活より格段にいいよね)

卵焼きを等分し終え、弁当箱に詰めて残りを皿に乗せた。

「朝食、用意できましたけど……」
「わかった」

忍は返事をしてすぐ、ダイニングテーブルへ移動する。鈴音は先に、忍のぶんをテーブルに運んだ。その後、自分のぶんの用意をし、椅子に座る。
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