Fragrance
土曜日。
ジャンに言われた通り、日程を全部キャンセルした。
自分のプライベートのために、彼の仕事の邪魔をしてしまってよかったのだろうか。
赤坂のジャンの住んでいるマンションに尋ねると、彼は花束を持って登場した。
「これを君に」
日本人がすれば恥ずかしいような行為も、外国人の彼がやるとサマになっている。
「あ、ありがとうございます」
「今日はモエの大事な時間をいただくからね。行こうか」
腰に手を回されてエスコートされる。
最初に連れて行かれたのは、銀座にあるブランドショップでそこでエルメスのスカーフ、そしてティファニーでネックレスを買ってもらうという尽くされっぷりに萌衣は混乱した。
「あ、あの……こんなにいただけません」
買ってもらった後に言うのはと気が引けたが、ジャンはあまり気にしていないようだ。
「このくらい普通のことですよ」
「ふ、普通なの?」
恋愛経験が乏しい萌衣でも普通ではないことは一目瞭然だ。
「さあ、買ったばかりのネックレスをつけてみてください。エレサ・オペレッティがデザインしたものはモエによく似合いますよ」
ティファニーのデザイナーの名前を挙げながら、ジャンは萌衣に買ったばかりのネックレスをつけさせる。
ハート形がモチーフの金色のネックレスは、彼女の華奢な身体によく映えた。
そして次に映画館に足を運び、広いソファー席でポップコーンとジュースを買って食べながら観る。
一席5000円もするその場所に驚きを隠せないでいると、ジャンは優しく萌衣の額にキスをして「リラックスしてください」と優しく微笑んだ。