結構な腕前で!
「さぁ帰りましょう」

「あ、はい」

 萌実が立ち上がったとき、目の端に、もわんと煙が見えた。
 振り向いたせとかが、素早く扇を突き出す。

「早いな。さすがと言うべきか」

 一撃で煙を仕留め、せとかはポケットから出した袱紗で、塊になった魔を包みながら、ぼそりと呟いた。

「え、何が?」

 疑問符を浮かべる萌実を外に連れ出し、せとかは道場に鍵をかけた。
 そして、ぱ、と手を差し出す。

「帰りの道々、話しますよ」

 にこりと笑う。
 えーと、と萌実は差し出された手を見ながら考えた。
 もしかしてこれは、手を繋ごうという意味だろうか。

「本当は魔を包んでいる袱紗ごと手を握って欲しいところですが」

 視線を彷徨わせている萌実のことなどお構いなしに、せとかはそう言って、萌実の手を取った。
 うぉ、と瞬間的に心拍数が上がったが、先の一言で手を繋ぐ理由がわかった。
 つまりは土門と同じ、祓いのためか。

「先輩にだって、守りの力はあるんでしょう? 慣れてるんだし、特に手、繋ぐ必要ないですよね」

 我ながら可愛くない、と思うのだが、一人で一喜一憂するのも辛いのだ。
 せとかは最近期待させすぎだ。
 踊らされないためには、早めにテンションを下げておいたほうがいい。

 予防線を張る心とは裏腹に、しゅたっと差し伸べそうになる手を押さえながら言った萌実の強がりは、有無を言わさず、ぎゅ、と手を握ったせとかの行動に打ち砕かれる。

「守りの力は、はるかたちほどではないですし。それに、ただ単に手を繋ぐだけでは駄目ですか?」

「ううえぇぇぇぇ? い、いえ、駄目じゃないです、全然。むしろ光栄です」

「良かった。もう日も落ちて危ないですしね」

 にこ、と笑って、せとかが歩き出す。
 あ、微妙に暗い山道は危ないからか、と思ったが、それでもやはり頬は緩む。

---ええいっ! もう馬鹿みたいでもいいっ!!---

 この行動に深い意味はなくても、もう思いっきり先輩の手の平で踊ってやる! と肚を決めた途端、アイスが溶けるように、萌実の顔は、へろ~んと締まりがなくなった。
< 144 / 397 >

この作品をシェア

pagetop