結構な腕前で!
---でも、はるか先輩が土門くんに惹かれてるなら、これはもうどうしようもないもんね---

 何も好きあっている二人を周りが引き離しているわけではないのだ。
 せとかが好きな萌実からすると不思議なのだが、傍目にも明らかに、はるかの好意は土門に向いている。

 可哀相だが、せとみは完全なる片思いなのだ。
 ほろり、と萌実が一人涙していると、いきなり視界にせとみが割り込んだ。

「どうしたのさ。魔に中った?」

「え? い、いえ」

 あなたを憐れんでました、とは言えず、萌実は慌てて手に持っていた箒を動かした。
 すでに大方掃き清められているが。

「萌実ちゃんも、いい加減作法習いたいよねぇ。俺が教えてあげるよ」

 ささっと萌実の背後に周り、せとみが釜の前に萌実を促す。
 あれ、いきなりどうしたんだろう、と不思議に思っているうちに、釜の横に座った萌実のすぐ後ろで、袱紗を畳む。

「袱紗の畳み方は初めに教わっただろうけど、覚えてる?」

「え、えっと。確か……」

 何が何だかわからないまま、萌実は自分の道具たちから袱紗を引っ張り出した。

「ここをこう持ってね、こっちはここを……」

 後ろから、せとみが萌実の手を取って教える。
 いつもはこれは、せとかの役目だ。

 そもそもせとみも作法を知っていたのか、と今初めて思ったぐらいだ。
 せとみがお茶を点てているところなど、今まで見たこともない。

「せ、せとみ先輩も、お茶点てられるんですね」

 落ち着きなく言うと、せとみは少し顔を寄せて、にこりと笑った。

「うん? そりゃあ、俺だって家元の息子だよ」

 う~ん、と萌実は内心首を傾げた。
 造りは同じでも、やはりせとかと違ってやたらとどきどきする笑みではない。

 我ながら不思議だと思う。
 ぱっと見は、せとみのほうが世間的にもいいと思うのだ。

 髪が短い分顔がよく見え、何より表情が明るい。
 気安いし、上辺は親切だ。

---造りが同じなら、せとみ先輩のほうが、普通はいいと思うよね---

「萌実ちゃん?」

「あ、えっと」

 思わずまじまじせとみを見ていたことに気付き、萌実は視線を手元に落とした。
 まじまじ見ていたことに気付いても、せとみだと焦ったりしない。
 ちろ、と萌実は少し向こうにいるせとかを見た。
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