結構な腕前で!
第二十章
 放課後、萌実は部室への山道に向かっていた。
 やっぱり部室で勉強しましょう、と言われ、図書室は却下となった。
 どっちにしろずっと魔を放っておくわけにもいかないのだ。

---あんなに酷い花粉症なのに、山は平気なんだなぁ---

 花粉症といっても、『花』限定らしい。
 というより真行寺アレルギーなのでは、と思わないでもない。
 それはそれで、萌実にとってはありがたいのだが。

 そんなことを考えていると、軽い足音が近付いてきた。

「萌実ちゃん。部室に行くのか?」

 振り向くと、せとみが歩いてきている。
 そして手に持った袋を嬉しそうに掲げて見せた。

「満月堂のクロワッサン鯛焼きだよ。これ食いたかったんだ」

「今日のお菓子ですか」

 相変わらずがっつりな茶菓子である。

「しかも焼きたて。さ、急ごう」

 うきうきと、せとみが萌実の手を取って小走りになる。
 と、いきなり背後から、ざっざっざっと足音が迫った。

 何この足音、靴か? と振り向いた萌実は顔を強張らせた。
 艶やかな振袖を翻して、由梨花が駆けてくる。

 その足元は、草鞋で固めてあった。
 大股になれないためか、ぴょーんぴょーんと飛び上がりながら追いかけてくる。
 飛び上がっているわりには、やたらと速いのだが。

「あああああなたは~わたくしの忠告を無視したわねぇ~~?」

 どろどろどろ、と効果音でもつきそうな勢いで、由梨花が迫る。

「天誅っ!」

 びょ~ん、と飛び上がった由梨花が、どこからか出した大輪のユリを振りかぶる。
 それを萌実の頭目がけて振り下ろした。

「うおっと」

 ぐん、と手を引かれ、萌実は一気に前方へ。
 その遠心力を利用して、せとみが由梨花の前に出た。

 そして、素早く萌実の手を放して、腕を一閃させる。
 その手には、いつの間にやら扇が握られていた。
 降ってきたユリは、昨日のように、すぱんと茎を切られて足元に落ちる。
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