結構な腕前で!
第二十三章
 とはいえ今はテスト期間中。
 何だかんだでやっぱり部室では魔に邪魔されて勉強どころではなかったため、結果は散々だった。

 悪い結果の答案用紙と共に、萌実は北校舎へと向かった。
 いつもならいくら嫌なことがあっても、せとかの姿で救われるのに、今回はそれすらない。
 どんよりと、萌実は北校舎の二階に上がり、華道部の部室を訪れた。

「お邪魔しま~す」

 やる気なさげに声をかけつつ、戸を引き開ける。
 途端にぶわ、と花の香りが鼻を打った。

 まだ由梨花は来ていないようだ。
 とりあえず戸を閉め、中を見回す。

 日本家屋風に改造された中身は、茶道部と似た雰囲気だ。
 目の前に小さな廊下があり、障子の向こうにはだだっ広い和室。

 廊下の先に、まだ部屋がありそうだ。
 おそらく更衣室だろう。

 萌実は靴を脱ぐと、奥へ進んだ。
 奥の障子を開けると、壁一面桐箪笥。

「あの高価な着物を、こんなに部室に置いてるのか」

 大丈夫なのだろうか。
 というか、何故こんなに必要なのだ?
 部員は由梨花一人ではないのか?

 いろいろな疑問が湧いたが、とりあえず箪笥の奥に鏡やドレッサーを見つけ、そこで着替えることにした。

「……さて」

 着替えたところで、がらら、と部室の戸が開く音がした。
 そして、僅かに廊下を踏む音がしたかと思うと、すらりと更衣室の襖が開けられる。

「……何なの、その恰好は」

 開口一番、由梨花が言う。
 念願の新入部員(あくまで臨時出向だが)に対して、その態度は何だ、と言いたいところだが、高級友禅を部活に使用する由梨花からすると、あり得ない格好かもしれない。
 萌実は着替えたジャージのまま、ぺこりと頭を下げた。

「とりあえず、よろしくお願いします」

 あくまで本籍は茶道部なのだぞ、と言葉の前半部分に込めて挨拶する。
 そんなところまで読んだかはわからないが、由梨花はジャージの萌実を押しのけると、桐箪笥の一つを開けた。
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