結構な腕前で!
「魔が湧いたら、背後であってもすぐに気付けるのですわっ!」

 先程までの優雅さからは考えもつかない素早さで、由梨花が鋏を背後に振り上げる。
 由梨花の頭上で、鋏に串刺しにされた魔が、ぴくぴくと動きをなくしていた。

「そぃやっ!」

 そのまま由梨花は、掲げた鋏を、弧を描くように前に振り下ろす。
 ぶぅん、と遠心力をたっぷり乗せて、魔は一直線に床の間の壺へ吹っ飛んだ。

 ぼぅん、と壺に活けられた食虫植物にぶち当たった途端、わさわさっと四方八方から葉っぱが魔に襲い掛かる。
 その様子に、やはり萌実は思いっきり引いた。

「ま、こういうことですわ」

「あ、えーと。あまりの惨劇に何話してたか忘れてしまったんですけど」

 引いたまま言うと、由梨花は、きっと萌実を睨んだ。

「だから! 雑念なくお花を活けられるようになれば、魔を気配で察知することも可能っていうこと! 何を見ていたの!」

「瀕死の魔が食虫植物に食われる惨劇の館を」

「あなたは一体、どっちの味方なのです!」

「先輩か魔か、と言われると、正直微妙です」

「失礼ですわよっ! あなたこそ、魔と共にあの子たち(食虫植物)の餌になるべきじゃなくてっ?」

「何で私を魔扱いするんですかっ」

 ぎゃーすかと言い合いながらも、萌実はふと我に返る。
 こんな不毛な言い争いばかりしていると、本気でいつまでたっても茶道部に帰れない。

「ちょっと真剣に考えます。そうだ、先輩は魔の気配って感じるもんなんですか?」

 いきなり真剣な顔になって言う萌実に、由梨花も姿勢を正す。
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