結構な腕前で!
第三十二章
 次の日部室に行くと、萌実は早速せとかに連れ出された。
 道場を通り越して、行ったことのない山の中へと入っていく。

「古戦場跡、といっても、実際戦のあったのは、ここではないでしょうけどね。山の中で戦はしないでしょう。実際は、陣地があったのだと思います」

「あ、なるほど」

「おそらく敗れた大将などが逃げ込み、一時の避難場所としてこの山の中に陣を築いたとか、そんなところでしょう。そんな広い拓けた場所があるとも思えないですし」

 そう言うせとかの手には、一冊の本がある。
 図書室にあった、この辺りの郷土資料だ。

「ま、確かにここは、ちょっと稀に見るほどの血生臭い戦いのあったところのようですが」

 そう言って、せとかは本をぱらぱらめくる。
 ちらりと見えたその本には、粗末なあばら家になだれ込む武者の絵があった。

「この山に逃げ込んだ武将たちは、見つけたお堂で傷を癒し、体制の立て直しを図っていた。でも結局は見つかって、ま、この始末」

 開いた本を、萌実の目の前に突き出す。
 そこには腹を刺され、臓物をまき散らす者、頭に槍を生やして倒れる者、炎に巻かれる者など、見るも無残な図が展開している。

「ちょ、そういうものを前触れなく見せないでください」

「おや失礼。南野さんも女性でしたね」

 何か含んだ言い方だ。

「でもそういう時代って、そんなこと珍しくもないんじゃないですか?」

「そうですね。これだけならば」

 せとかは本をめくりながら、凄惨な絵をまじまじと見る。

「まずここに潜んでいるのがバレた経緯ですが、どうも内通者がいたようです」

「あらら。それは致命的ですね」

「内通者というか、村人ですね。この辺に住んでいた人が、探しに来た敵に教えたそうで」

「元々の土地の者じゃなかったら、村人も敵と同じなんですね」

「まぁ落ち武者など、村を荒らす脅威でしかないですからね」

 わざわざ山に隠れたのは、土地の者からも逃れるためだったのか。
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