結構な腕前で!
 その反対がせとかなのだろう。
 大勢といるよりは一人を好む。

 だから他人を見る余裕もあったわけか。
 常に人の中心にいたせとみを、外から眺めていた、と考えると可哀相になるのだが。

「てことで、安心して真行寺さんとお付き合いなさい」

 さらっとせとかが、考えにふけっていたせとみを現実に引き戻した。

「だから。いきなりそうなるって、おかしいだろ」

「おかしくはないですよ。大体いきなりでもないです。真行寺さんは、ずーっとあなたを追っかけてたじゃないですか。やっとか、といったところですよ」

「とうとう俺が落ちた、と思われるのは何か嫌だな」

「そうですねぇ……。とうとう、というか、やっと本来の姿に気付いたんでしょうけど」

 ふと、せとみはせとかを見た。

「お前は真行寺の本来の姿に、とっくに気付いてたってことか?」

 ちょっと、せとかが片眉を上げる。

「ていうか、あんなイノシシみたいに迫るのは、せとみに対してだけですよ。僕に対しては、そうですねぇ……。陰険で高飛車で人の目を気にしない変人ってところでしょうか」

「散々じゃねーか……」

「ところが彼女も普通の女子な面もあったってことです。せとみがちょっと彼女に歩み寄った途端に、イノシシが猫に変わった。あ、子猫って意味じゃないですよ。僕に対しては、相変わらず陰険高飛車変人ですから」

「だから、その猫っぽいところに、お前は気付いていたのか?」

「気付くわけないでしょう。今だってせとみがいないと、ただの陰険高飛車変人です。大体僕は、真行寺さんには興味がない」

「……そんな奴を勧めるなよ」

「せとみに対しては違うんだから、いいじゃないですか。意外と普通だってことがわかったんだし」

「どーだかな……。お付きの者に気ぃ遣うんだぜ」

 ふぅ、とため息をつくせとみに、せとかは由梨花の命令に絶対服従な但馬を思い浮かべた。
 なるほど、ああいうのが常に一緒にいるのなら気詰まりだ。

 そんなことを話している間に、瞬く間に夜は更けていった。
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