結構な腕前で!
第三十五章
「てことで、協力してくんねぇかな」

 ある日の昼休み、せとみは由梨花を呼び出して屋上にいた。
 由梨花は人目を惹くため、あまり人のいるところでつるみたくないのだ。

「せとみ様のご要望とあらば、やぶさかではありませんけども」

 強い風に煽られた長い黒髪を、ばさ、と後ろにやりながら、由梨花が言う。
 こういう態度がつくづくよく似合う。

「でも魔を一掃なんて、できるものですの?」

「できるはずだ。つか、いい加減この魔を何とかしねぇと、世の中がヤバいぜ」

「そうかもしれませんわね」

 少し渋い顔で、由梨花がちらりと足元に視線を落とす。
 但馬が、さっと小さな椅子を、由梨花の背後に用意した。

 当たり前のように、そこに由梨花が腰を下ろすと、今度は、ささっと茶屋のような傘を差しかける。
 一瞬で、由梨花の周りだけ峠の茶屋だ。

「あれからわたくしも、いろいろ調べてみたんですの」

「い、いやその。その状況、何とも思わんのか」

 普通に話を続ける由梨花に若干引きつつせとみが言うと、由梨花は、ちょっと首を傾げた。
 そして、気付いたように、ぽんと手を打つ。

「あら、失礼しました。但馬、何やってるの。せとみ様にも椅子が必要でしょう?」

「いやあのな。そういうことじゃなくて」

 せとみの言葉など聞かず、但馬は、きょろ、と周りを見る。
 どうやら椅子は一つしかないようだ。
 由梨花のためだけの装備なのだろう。

「仕方ありませんわね。せとみ様、但馬の背にお座りになって」

 由梨花の言葉を受けて、但馬が、さっとせとみの前に膝をつく。
 そのまま四つん這いに蹲ろうとするのを、せとみは堪りかねたように遮った。

「もー! 何やってんだ。何の罰ゲームだよ! つか、あんたも素直に聞いてんじゃねぇよ」

 ここまでくると、最早苛めかドMかのどちらかしかない。
 やられたせとみのほうが恥ずかしくなり、ひとしきり喚くと、せとみはぐい、と但馬の腕を引っ張って立たせた。
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