結構な腕前で!
「でも、こんな簡単に入れていいんですかね」

「土地の者ならこの山に入ろうなどと思いませんから、大丈夫ですよ」

 古戦場跡で不穏な空気を纏った山だ。
 実際に魔が出る山になど、好きこのんで入る者はいない。

「しかも、こっちは校舎側よりも不気味ですしね」

 確かに、と萌実は辺りを見回した。
 校門を入った途端、一気に暗くなる。
 空気も変わったようだ。

 校舎のほうから部室に行く山道は、ここまで妙な空気ではない。
 むしろ清々しいハイキングコースだ。

「校舎側は、他の部も使用している分、人の出入りが多い。自然と空気が入れ替わって、浄化されてるんですよ」

「なるほど。それだけで、随分違うもんなんですねぇ」

「山ってそういうもんなんです」

 すたすたと先を歩きながら、せとかが説明する。
 それにしても、と萌実はせとかを見た。

 こちら側は人が通らないため、かろうじてあるけもの道も消えかけている。
 足元は根が走り、登山コースのような木の階段もないので足場が悪いことこの上ない。

 せとかの格好は、袴ではなく、いわゆる着流し。
 足元は下駄だし、どこをどう取っても登山者の格好ではないのだが。

「先輩。大丈夫ですか?」

 萌実の声に、せとかが不思議そうな顔で振り向く。

「何がです?」

「そんな格好で、動きにくくないですか?」

「僕は和装のほうが動きやすいです。パンツって動きにくくないですか?」

「いえ、全然。ていうか、格好もそうですけど、下駄で登山とか。歩きにくいんじゃないですか?」

「いえ、全然。日本の技術をなめたらいけません。古来より修験者だって下駄で山を闊歩してるじゃないですか」
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