結構な腕前で!
終章
 しゅんしゅんと茶室にお湯の沸く音がする。
 丸い窓から差し込む日差しは随分と柔らかくなり、茶室のある山は紅葉真っ盛りだ。

 しゃくしゃくしゃく、とお茶を点てる音を聞きながら、萌実はぼんやりと窓から見える紅葉を眺めた。
 本来茶道とは、こういうものだろう。
 静かな茶室で、ゆったりとお茶を嗜む。

「うぃーす。茶菓子お待たせ~」

 そんな静かな空気をぶち破り、がらりと茶室の障子を引き開けて現れたのはせとみだ。
 掲げた手には桜庵の袋。

「待ちに待った紅葉羊羹だぜ! 美味いんだ、これが」

 いそいそと茶室に上がり、袋から四角い包みを取り出す。

「はい、萌実ちゃん」

 二十センチぐらいの羊羹をそのまま渡され、萌実は手の中の羊羹をまじまじ見た。
 せとかにも同じように、一本丸ごと渡している。

「いやいや先輩。せとか先輩はともかく、私はこんなに食べられません」

「え~、そう? ここのはしつこくなくて、あっさりしてるよ?」

 いくらしつこくなくても、普通一気に羊羹一本は食べないだろう。
 現にそういうせとみも、ナイフを用意している。
 自分は一本食べないらしい。

「萌実さんは、せとかと違ってやたらお腹が空くことはないのね。良かったわよね、女の子でせとかぐらい食べてたら引かれるわ」

 はるかが言いながら、萌実の手にある羊羹を受け取り、せとみにも手を差し出す。
 せとかの摂取量は、男でも引く量だと思うのだが。

「私たちは三人で一本で十分でしょ」

「嫌だね。この一本は俺のだ」

「まだあるんだから、どうせ残るじゃない」

 子供の喧嘩のようだ。

 裏山の穴を塞いで以来、ぱたりと魔は出なくなった。
 夕暮れ時にちらりと何かが現れることはあるが、今までのように襲い掛かってくることはない。
 本来あるべき『茶道部』の姿を取り戻したわけだ。
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