結構な腕前で!
 待ちに待った放課後。
 萌実はいそいそと図書室に向かった。
 中に入ると、真っ直ぐカウンターへ向かう。

「あ、あと少しで終わりますから、ちょっと待っててください」

 さらっと部屋の中を見、せとかが言った。
 二、三人の生徒が本を選んでいる。

 頷き、萌実はカウンターの近くの席に腰を下ろした。
 そのうち残っていた生徒は貸し出しを終えていなくなり、図書室にはせとかと萌実だけになった。

「じゃ、どうぞ」

 せとかが立ちあがり、萌実を奥の倉庫へ誘う。
 誰もいない図書室の、さらに奥の部屋に誘うなんて淫靡! と浮かれる萌実を置き去りに、せとかはとっとと鍵を開けて中に入った。

「先輩。私も入っていいんですか?」

「いいですよ。誰もいないでしょう?」

 倉庫の中は持ち出し禁止の分厚い本などが並んでいる。
 いつも思うのだが、持ち出し禁止と謳わなくても、こんな分厚い本、誰も持ち出そうなどと思わないと思うのだが。

「こんなもんでいいですかね」

 はた、と気付けば、棚の奥からせとかが一冊の本を手に戻ってきていた。
 茶道の入門書のような、写真が満載の本のようだ。

「はい。ありがとうございます」

「家に行けば、もっと詳しい本もいろいろあるんですけどね」

「そうなんですか? あ、先輩のお家、茶道の家元なんですよね」

「ええまぁ。そんな有名な流派ではないんですけど」

「でも凄いです。習いに行こうかな」

 そしたらプライベートな繋がりができるではないか。
 お家にも行けるし! と邪な気持ち満々で言ってみる。
 が、現実主義せとかは、ただちらりと萌実を見るに止めた。

「わざわざ習いに来なくても、部活で教えてあげますよ」

 ばさりと切られる。
 確かにせとかの言う通りだが。
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