結構な腕前で!
第九章
 今日は道場解放日。
 いつものように裏部長はやる気満々だ。

 大暴れできるというのもあるのだろうが、解放日はお腹が空く、という理由でお菓子が豪華なのもあるようだ。
 つくづく裏部長の行動は食べ物で左右されるらしい。

「萌実ちゃん。そろそろ思いっきり暴れてみなよ。スカッとするぜ」

 軽く屈伸しながら、せとみが言う。

「危なかったら、ちゃんと助太刀するから」

 にこりと言うが、萌実は、はぁどうも、と気のない返事を返す。
 元々せとみのこういう言葉は信用ならない、とわかっているし、何より昨日のはるみの話が心にある。
 ちらりと萌実は、少し後ろにいるはるかを見た。

---こういうことを他の子に言うのって、気にならないのかな---

 見たところ、はるかの態度にも表情にも、何の変化もない。
 はるかの気持ちはわからない、とはるみは言っていたので変化がなくてもまぁいいが、せとみもちょっとは気を遣ったらどうなのか。

 好きな子の前で他の子を構うってどうなの、と思っていると、不意に横から、にゅ、と手が出た。
 ぎょ、と見ると、せとかが手でせとみを制していた。

「せとみ。今日はちょっと控えてください」

 何だ? 私にちょっかいを出すせとみ先輩に、とうとう痺れを切らせたか?
 もしかしてせとか先輩、ヤキモチ? と若干喜んだ萌実を挟んで、せとみが噛みつく。

「何でだよっ! こっちの活動の部長は俺だぞ!」

「ですが、ちょっと試したいことがあるんです」

 きゃんきゃんと噛みつくせとみにも涼しい顔で、せとかは萌実の肩に手を回した。
 うっひょい! と萌実の心臓が跳ね上がる。

「もー。せとかぁ、せくはら~」

「せとかがそんなべたべたしたら、萌実さんにも迷惑よ~?」

「「萌実さんに好きな人がいても、せとかのせいで進展しないじゃない~」」

 後ろから双子もせとかに抗議する。
 途端に、ぱっとせとかが掴んでいた萌実の肩を離した。
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