結構な腕前で!
第十一章
 じりじりときつい日差しに炙られながら、萌実は山道をよろよろ歩いた。
 まだまだ夏の日差しは弱まりそうにない。

「これってウォーミングアップも兼ねてるのかしら」

 部室につくまでに、かなりな運動を強いられる。
 茶道にウォーミングアップとか意味が分からないが、あの部活に関しては頷ける。
 並みの運動部よりも運動量は多いだろう。

「私の腕前って、どの程度なんだろう」

 ぶん、と右腕を振ってみる。
 そして、いやいや、と慌てて両手を揃えた。

「私は茶道部なんだから、茶道の腕前だって。喧嘩の腕前なんかじゃないのよ。茶道の腕前を磨いて、おしとやかにしておかないと」

「どっちの腕前も必要だぜ?」

 不意に声がし、ざざっと横の藪が揺れた。
 崖から、すとんとせとみが飛び降りてくる。

「茶道部に、おしとやかな奴なんかいないだろ?」

「確かに、ここではそうですね」

 それは本来おかしいことなのだが。

「うちの茶道部は、裏がメインなんだから、いっそのこと『結構な腕前で』でいいと思うんだよね」

「あはは。それ、面白いですね」

「萌実ちゃんなら、まさしくそっちだよな」

 これまた微妙なことを言う。
 へら、と笑って誤魔化した萌実の手元に、せとみの視線が落ちた。

「あ、それ、今日の茶菓子?」

「はい。冷やしぜんざいです」

「団子あり?」

「あ~……。ないですねぇ」

 冷やしぜんざいは飲み物、という感覚だったので、団子入りではないものを選んできた。

「団子なしか~。じゃ、俺は今日お休みね」

 言うなり、ぱっと身を翻して山を下ろうとする。
 萌実はすかさず、せとみのシャツを掴んだ。
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