攻略なんてしませんから!


 白くてふわっとした丸い耳と走ることで跳ねている白黒斑の髪、嬉しそうにゆらゆらと揺れる白黒の尻尾。手を伸ばしてブンブンと振りながら、まるでワンコのように走り寄ってくるのは、ホワイトタイガーの獣人でもあり、魅惑のモフモフを持つアズライト様。
 男子の学園の制服は、貴族科と魔法特進科は前世のスチルでも見ていたようなデザインのブレザー。白を基調にして、濃い紺のラインが全体を縁取っている。ズボンはラインと同じ色の濃い紺。左胸に王国のエンブレムが付いていて、金の釦が三つ。貴族科は袖に金の釦一つで、魔法特進科は金の鎖が付いて変化をつけています。
 騎士科は無駄な装飾が殆ど無くて、しかも詰襟の学生服風なんです。此方は紺を基調にして、胸に王国のエンブレム縁取りは黒です。普通科も騎士科と同じですが、ラインの縁取りが白ですね。
 アズラは動きやすいように、上着の裾を短くしてるようで、元気に飛び跳ねるたびに細い腰が見えるので、拝みたくなります。ご馳走様です。あ、上着の下は自由のようで、シャツを着たりしてますよ。
 初めて逢ってからの長年の餌付けが胃袋を掴んだのか、今では私を見ると嬉しそうな顔をして猫科なのに、ワンコもびっくりな位に飛んできます。何度も言いますが、ホワイトタイガーは猫科です。

(あ、でも猫まっしぐら~なやつあったわ。餌の前なら同じって事か) 

 成長をするたびに可愛い少年の声は、落ち着いた低さと色気を含んできたけれど、私に向けられる無邪気な笑顔が本当に眩しくて、感動よりも可愛さに鼻血が出ないかと顔隠しに扇を持つ様になりました…。ごめんね扇さん、変な目的で使いまわして。

(大好きな声で、なおかつ大好きなモフモフ。最高でしかない、これ以上に何を求めろと?)

 知り合った当初は階級の差もあったので、『アリア様』『アズラ様』と呼び合っていましたが、九年も経った今では、『アリア』『アズラ』と仲良く呼び合っています。王族とも付き合いのある私達兄妹とよく一緒にいるようになったからか、アズラは学園でのリモナイト殿下の護衛として任命されています。

「アリアの後姿が見えたから走って来たんだ、リモナイト殿下もやっぱりご一緒でしたね」
「……邪魔」
「はい?」

 ポソッと呟かれた言葉は、耳が良い筈のアズラには聞こえなかったらしい。アズラがにっこり笑って聞き返しているけど、リモナイト殿下は『何でもないよ』って可愛い笑顔を向けてますし。多分リモナイト殿下は風魔法を得意としているから、風で消してしまったのかもしれない。

(それにしても、リモナイト殿下のツンが全然出てこない…。もしかして、アズラと一緒で餌付けし過ぎたかしら?アリアって呼ばれて笑みを向けられるのは、確か好感度が半分超えた辺りだったよね)

 触れられた髪に残る感触と、ふわっと風に乗って香る私とは違う甘くて爽やかな香りが鼻を擽って、安心したはずの心臓を騒がしくする。忘れかけていたドキドキと胸をときめかせる驚きは、不快ではないけど罪悪感も同時に感じてしまう。

「アリア、早くカフェテリアに行こうよ。ラズ兄様も向かってると思うから」
「あ、はい。そうですわね」
「リモナイト殿下、僕ラズーラ王子殿下から伝言を承ってます。カフェに行く前に代表室に来て欲しいと」
「えー?アリアと一緒に行こうと思ったのに。仕方無いか、ラズ兄様の言いつけなら」
「護衛いたします」

 残念そうに溜息を零すリモナイト殿下に、アズラも騎士の礼を取って後ろへと付き従う。この主従も結構似合うんですよね。一番はやっぱりラズーラ殿下に付き従うジャスパー様かしら。女生徒達からも絶大な人気を誇っている、ラズーラ王子殿下と護衛騎士ジャスパー様ですが、其処にアイクお兄様とマウシット様が加わると本当に絵のようです。

「アリア、又後でカフェテリアでね」
「はい、先に行ってお待ちしておりますわリモナイト殿下」
「お茶とケーキお願いしていい?リモナイト王子殿下と僕のも」
「わかりましたわ、アズラ」

 先に向かう私が注文をしておくのはいつもの事なのに、今日はリモナイト殿下の白い頬がぷっくりと膨らんで、ちょっと拗ねています。どうしたのだろうと首を傾げると、顔を覗き込んで来る瞳が妖艶さを醸し出していて、ちょっと、色気出さないでくれません!?

「アリア、アズラは呼べるのに、僕は殿下のままなの?」
「…お、お待ちしてますわ。リィ様」
「うん!又後で」

 リィ様と呼ぶのを決定付けされたようです。
 にっこりと無邪気な天使の笑顔を向け、頬に軽くキスされました。子供の時からのリィ様の挨拶なんですけど、学園では御令嬢方の目もありますので、ええ、殺気を含んだ視線が痛い痛い。微笑みを保ったままお見送りしようと思ったら、今度はアズラが拗ねて居ました。この二人、幼い時と同じで直ぐに拗ねるの止めなさい。

(さて、アイクお兄様を待たせていたらいけませんしね)

「カフェテリアに行きましょうか、オブシディアンとハウライトは今日は何がいい?」

 私の肩に乗ったままでちゃっかり楽をしているハウライトと、足元を歩きつつも誰にも蹴られる事なく付いてきているオブシディアンも、時折綺麗なオッドアイの瞳がキョロキョロと動いています。耳も音を拾っているのか動いていて、ハウライトの耳が私の頬を擽ってきてました。

『アリア、本当に何とも無い?』
「どうして?」
『ハウライトは、あの狼を警戒してる。闇だから』

 確かにギベオンは闇属性の聖獣で、しかもオブシディアンよりも力は強い。そもそもハウライトが私の守護聖獣になったのは死にそうなオブシディアンを助ける為だし、オブシディアンは助けたお礼に守護聖獣になってくれたというだけ。

(願いを持って、ギベオンと契約をしたルチルレイと私はスタートからさえ違うのよね)

 だけど、ただ私を見ていただけなのか、騒ぎ過ぎていたのか。殺気の篭ったあの視線は正直怖かったです。もしルチルレイがリモナイト殿下を攻略対象としてみているなら、確かに私は悪役令嬢な立ち位置になりかねない。

(記憶にあるゲームのギベオンがとても優しかったから、今のギベオンやルチルレイにどう接していいのか分からないのよね……)

 ギベオンがルチルレイに付いているという事は、初心者用ヒロインの特典は付いているのだろうか?とか、考える事は色々出てくるけど、今はハウライトのふわふわな毛並みに頬を摺り寄せて癒されつつ、アイクお兄様が待つカフェテリアへと歩き出した。


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