アレキサンドライトの姫君
そう続けられて、話の道筋がやっと見えた。
『ヴァルトニアの国宝は、私が頂戴します』
頭の片隅に追いやりそうになっていたあの不可解な言語のメッセージにも繋げて纏められ、色々と理解することができた。

「この王宮の警備は厳重だが、人の出入りは激しい。私にも公務があり貴女を四六時中守るのは不可能だ。護衛はつけさせるが、どうか貴女も充分に警戒していて欲しい」
「分かりました」
「そして、あまり人を信用しないよう。それがミーナであっても、だ」
「え!?ミーナですか?」

思いがけない人物が名指しされ、エーデルは驚愕に目を見開いた。

「王宮内に内通者がいるのはほぼ間違いない。貴女に関することならミーナからの情報が一番精確で迅速だろうからな」

人を安易に信用してはならないというのはとても悲しい事だと初めて知った。
それと同時に、彼は常にそういう立場にいるのだと気づいた時、彼の中に孤独という昏い影が垣間見れたような気がして心が痛かった。
きっと誰かに失脚を望まれているような…幼い頃から命をも狙われるような、そんな位地にいるのだ。
しかし、それ以上に彼がそんな負の感情を微塵に感じさせないほど強く建設的であることが眩しかった。
理知的で聡明な凛々しい面差し。
エーデルより三歳年上というだけなのに、その三年はとても大きいものに感じる。
見惚れていると、現実に引き戻すかのように部屋に扉を叩くノック音が響いた。
ディルクは腕からエーデルを少し離し、

「はい」

扉へそう返事をすると、開かれたドアから現れた人物の姿にエーデルは驚愕した。

「え……?」
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