アレキサンドライトの姫君

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ーーー事の起こりは四日前に遡る。
その日も彼女はいつもと変わらぬ穏やかな時を過ごしていた。

ここヴァルトニア公国は東西を強大な大国に挟まれた小国家である。
幾度も戦乱が繰り返されその度に侵掠の危機に曝されて美しい国土が戦火に見舞われたという過去もあったようだが、それは遥か昔の話。
現在は周辺国との講和条約が結ばれ和睦という均衡の保たれた穏やかな情勢の中、大公を国主とし貴族・僧侶・平民に階級分類(ヒエラルキー)された民たちが各々平和に暮らしていた。
大公の居住区である離宮と政治(まつりごと)の中枢である宮殿を中心とした都には貴族の館が点在し、都と城下を隔てるように湖がありその畔には身分の分け隔てなく通うことのできる大聖堂が建っている。城下は沢山の店が軒を連ねておりその商いをする者、田畑を耕す者…平民たちはそれぞれ様々な職業に就いて暮らしている。
透明度の高い湖と緑に恵まれた美しい国土。そして国を取り囲むようにして聳える山脈には豊かな鉱脈が眠っており、多種多様な鉱石が採掘出来る。
それを主要産業とし国は繁栄していた。
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