誘惑。
「お前が俺を誘惑できたら、考えてやる」

それは勝手にいい方にに捉えていいのだろうか?

「まっ、せいぜい頑張るんだな?」

その一言を発した後、ほのかに口角が上がったような気がした。

いじらしく嫌らしい顔でさえ、真っ当に見えてしまう。

「はい。……頑張ります」

「なら、今日はもう帰れ」

「課長は帰らないんですか?」

「誰かさんのせいでまだ仕事が残っている」

「す、すみません」

「ふっ… 気をつけて帰れよ?」

課長の飴と鞭の使い方は、私には効果覿面だ。

少し気をかけてもらって、一瞬緩んでくれただけで、これだ。



私はこの罠にまんまと引っかかった。
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