Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
「夕方、事務所を出ていった理由も嘘だよね、コンビニに行こうとしたって、財布を置いて? 普段、愛想笑いなんて浮かべないのに不自然だっだよ。それから陣も、彼はバカ正直だから嘘がよくわかる。ふたりで口裏を合わせていたんだろう?」

完全に見破られていて、サッと血の気が引いた。
私と陣さんの関係には”やましいこと”などなかったはずだ。
それなのに今は、御堂さんに嘘をついてしまったこと自体が私と陣さんの”やましいこと”になってしまっている。

「……あの、それは……」

「即答できないようなこと?」

「そんなんじゃ――」

言いわけをしようとして、しどろもどろになる私を、御堂さんはフッと笑って一蹴した。

「言いたくないならいいんだ。そもそも、俺はふたりの関係をどうこう言えるような立場ではないし」

「……でも、さっきは……」

「陣がいた手前、強気にあんなこと言ったけど、俺は華穂ちゃんの彼氏でもなんでもないし、行動を制限する権利はないから」

感情が揺さぶられて、胸がズキっと痛んだ。
私たちは付き合ってなどいない、そう念を押されたような気がして。

それなら、さっきのキスはなんだったっていうの?
通り魔に襲われたとき、無事だった私を喜んで抱き締めてくれたじゃない。
あのときの熱い口づけは、恋愛感情でもなんでもなく、ただの同情だったとでも言うの?
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