ナミダ列車
物憂げに外を眺めている様子が繊細に描かれている絵を、彼は黙って見つめている。
「…あの、」
ちゃらんぽらんなハルナさんはいなかった。瞳を静かに下げている彼は、寂寞と口を閉ざす。
———本当の彼はどっちなのだろう。
いつの間にか彼に関心を向けている自分に驚いて。
「ほんと…うまいよね」
ポツリ、言葉を漏らしたハルナさんは火が消えたように微笑む。
「俺を、描いてくれたんだ…」
「あ、はい…なんかこう、指が自然と…」
「そう…」
なんて言ったらいいんだろう。
嬉しさと悲しさがごちゃ混ぜになった顔をしているハルナさんに、うまく振る舞えない。
「ばぁちゃんも見て!オネーチャンほんとじょうずだよ!」
なにもそんな表情をしなくても。予想外の反応にタジタジになっていると、ミユちゃんは今度は老婦人にスケッチブックを押し付けている。
ああ、なけなしの模写が絵画の大先輩のお目に触れてしまう。
おこがましいし、恥ずかしいし、心の中でどんな評価がされるのか内心ドキドキした。
けど、
「…いい絵、だねぇ…っ、」
彼女はスケッチブックを受け取って、息を殺すように泣いていたのだ。