・喫茶店『こもれび』
「ここで何をしているんですか?」
背後に迫る私の気配にも気づかない程、彼女は何を考えていたのだろう。
もしかしたら、三好さんが言っていたように余計な詮索はしない方がいいのかもしれないけど。
「ちょっと、考え事……かな」
ポツリと呟いた彼女が隣に座ることを勧めてくれたので、三好さんに持たされた缶ジュースを手渡しながら、彼女の隣りに腰を下ろした。
「私、都倉彩夏。十九歳、もうすぐ二十歳です」と、唐突に自己紹介した私の顔を目を丸くして見つめた彼女も、つられるように名前を告げた。
「加納真澄(かのうますみ)です。私は二十五歳……」
そう答えた彼女はフフッ。と微笑み「久々に歳を口にしたら、自分の年齢を実感しちゃった」と笑い始めた。
「店員さん……じゃなくて。都倉さんは十代かぁ、若くていいわね」
「何言ってるんですか、そんなに変わんないじゃないですか」
「結構違うものよ」と答えた彼女は、目の前に広がっている海に目を向けた。
まただ。
さっきお店でも感じていた、あの感じ。
どこか遠くを見ている様な「心ここに在らず」って雰囲気を感じ取った。
脳裏には三好さんが言っていた『お客様に対して、余計な詮索はしない』という言葉が過っている。