雨降る午後に
急に、春陽が肩に触れた感触がよみがえる。
肌に添ってくる、服の感触にその感覚がシンクロしてくる。
「ダメだ、着れない」
頭を振る。
「落ち着け、あたし。相手はただの春陽君だ」
すでに『ただの春陽』って言葉が、幻想になってきている。
その他大勢の枠から、綺麗に鮮やかに切り取られて、特別枠に張り付けられている気がする。
コンコン
ノックの音が高く響いて、あたしは飛び上がった。
ただでさえ、心臓を酷使しているのに、驚かさないでほしい。
「入って大丈夫?」
「あ、ちょっと待って」
あたしは慌てて服を着こんで、ドアを開ける。
背景に溶け込む色彩だった春陽が、くっきりと、鮮やかに塗りなおされてそこにいる。
何で、気付かなかったんだろうな。
この人、かっこいい。
それに、
自分がかわいいことを知り尽くしている三鷹とは違う。
自然な笑み。
相手に見せるため、じゃなくて、笑いたいから、笑ってる。
「大丈夫そうだね。大人の服を無理やり着てる子供みたいな感じになるかと思ってたけど」