副社長のイジワルな溺愛

 十九時になったのを確認してから、PCをスリープにした。


「深里さん、もう終わったの?」
「出かけて戻ってきます。これ、原本差し替えが必要で……」

 こんなに残業するのは月末くらいだからいいけれど、強要されているようで気分が悪い。
 向かいの席に座っているお局の先輩に帰宅するのかと咎められて説明すると、「大変ね」と労いが感じられない声が返され、私はバッグを持って離席した。



 普段、来ることのない銀座の街。七月下旬の夜は今にも雨が降りそうなほど蒸していて、少し歩いただけで汗ばむ。


「club藍花……この辺りにあるはずなんだけどなぁ」

 携帯で地図を見ながら歩く私は、黒のスキニーパンツとシンプルな白いシャツの格好で明らかにこの街で浮いている。
 楽でやめられない通勤用のリュックサックを背負っているのも、OLらしくはないだろう。


 近隣を彷徨うこと十分。
 明らかに高級そうな店構えにたじろぎつつ、様子をうかがうようにドアを開けた。


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