副社長のイジワルな溺愛

 最寄駅構内の前には路線バスが数台並んで乗客を待ち、タクシーも列を成している。私と同じようにデッキになった歩道橋を多くの社会人が渡り、改札へ向かう人や待ち合わせをしている人もちらほら。

 今日も私は会社と家の往復で一日を終える。
 ようやく試験勉強から解放されたから勉強する気にはならないし、何をして過ごそうかと考えつつ、ふと視線を下にあるロータリーに流した。


 ――あれ? 副社長だ。

 車寄せに愛車を停め、車外に出て誰かと話しているようだ。誰と話しているのかは、ここから見えなくて歩を進める。

 話し声は街の喧騒でかき消されて聞こえない。でも、副社長の表情はとても穏やかで、口元は綺麗に弧を描いて微笑んでいるようだ。


 五歩ほど進むと、邪魔になっていたデッキの張りだしがなくなってよく見える位置に出た。

 一緒にいる人は背中向きで顔こそ見えないものの、明らかに男性と分かる身体つきだ。一体誰なのか気になって眺めていると、彼らは突然抱き合って耳元で話しては嬉しそうにしていて……。


< 150 / 386 >

この作品をシェア

pagetop