副社長のイジワルな溺愛


 帰りは、お店の前で別れた。

 彼に背を向けて、踏み出したら涙があふれて止まらなくなった。



「……好きなのに」

 こんなに好きになった人は、これから先も現れないんじゃないかって思える。

 倉沢さんが笑ってくれると嬉しくて。
 倉沢さんに会えただけで、その日一日が幸せなものに変わった。

 彼がいてくれたから、仕事も好きだった。
 彼がいる会社にいられるのが、誇りでもあった。

 大きな仕事を任されて、誰からも慕われている彼に憧れて。



 帰宅して、靴も脱がずに玄関に座り込む。
 止まらない嗚咽を腕の中に閉じ込めるように、膝を抱えて俯いて、たくさんの涙を落とした。


< 178 / 386 >

この作品をシェア

pagetop