副社長のイジワルな溺愛

「寝癖が付いたまま出社するんじゃない。メイクが崩れたら、ちゃんと直しなさい。君は何のために変わろうとしてきたんだ?」
「……自分のためです」
「それから?」

 それから……倉沢さんへの想いを叶えるため。
 でも、もうそれもなくなってしまったから……自分のためだけじゃ、頑張れないほど立ち上がれなくなってしまって。


「倉沢が好きだから、頑張ってきたんだろ?」
「はい……」


 返事をしたら、涙がこぼれた。
 L字型の大きなデスクの傍らを借りて、作業をしていた私の手元が少しずつ濡れていく。


「泣くようなことがあったなら、どうして俺に言わない?」

 副社長が帰国した夜、電話越しに聞いた優しい声色が頭上から聞こえて、私はふと彼を見上げた。


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