副社長のイジワルな溺愛

 所属している管理部経理室は一般職の内勤。そして、私は地味で目立たずひっそりと働き、日々業務をこなすことを目標にしている。
 安定を求め、大手に就職できればいいと思って試しにエントリーしたら、運よく内定をもらっただけ。ものすごく建設業に興味があったわけでもないし、どちらかというと数字は苦手だ。


「深里さん、これ通せないやつ」

 先輩の女子社員から返されたデータと証憑を見比べつつ、先に途中だったものを終わらせようと手を伸ばす。
 あれ? さっきどこまで数えたっけ……領収書の枚数も多いし、桁が多くて数えるのも一苦労だなぁ。


「ちゃんと見えてんの? その瓶底」
「あはは、これですか? 見えてますよ」

 瓶底と言われているのは、私の眼鏡のこと。昔から読書が好きで暗い部屋で読んだりしていたから、視力が一気に落ちてしまったのだ。遺伝もあるけど、私ほど視力が悪い家族はいない。


「……ん? ミサト様って、覚えがない領収書だなぁ」

 この会社に、ミサトという名字の社員は私だけ。片仮名で表記されていても一人しかいないのだから、一見すると私が会社のお金で落とそうとしていることになりかねない。
 実際は申請データがあるから、そんなことにはならないけど……。


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