副社長のイジワルな溺愛

 彼がいない間の一ヶ月は、何とも味気ないものだった。

 仕事をするためだけに出社して、食欲のない身体に義務的にランチを入れて。
 月末月初以外は、ほぼ定時で帰宅した。

 スイスにいると連絡があったあと、ドイツやフランスを回っているとメールが届いた。
 時々、観光地を通ると綺麗な街並みや山々を撮った写真も添付してくれたけど、彼自身が映っているものは一枚もない。


 愛しい体温を求めるように、自分の唇を指先で触れる。
 毎夜一人の時間を迎えると、いてもたってもいられなくて、一度だけ泊まっていった彼の残り香がないかと、ベッドの上を彷徨ったりもした。


 シーツだって洗ってしまったし、部屋着もなかったから……そんなものは私の記憶にしかないのに。


「会いたいよ……副社長」

 月に照らされて繋がったあの夜、二人で見上げたようにベッドから空を見る。


 いま、副社長はなにをしていますか?――

 十二月十五日。
 初雪はまだ先だと、TVのニュース番組が報せた。


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