誰も知らない彼女
ふぅ、と息をつきながらそう思っていると、校舎の向こう側から誰かがゼェゼェと息を荒くさせて走る姿が見えた。


誰かなんてもうわかっている。


迫りくる姿を見て、泣きやんだいっちゃんがはっと目を見開いた。


「あっ、もしかしてこっちに向かって走ってるの、あっきー……?」


いっちゃんが秋帆のことを“あっきー”と呼んでいたのは1年生のときから知っている。


そのことに驚きと疑問はまったくない。


いっちゃんは仲よくなったクラスメイトをあだ名で呼ぶことが多かったが、私だけはあだ名ではなく“ちゃん”とつけて呼んでいた。


そんなことは今はいいか。


「うん、そうだよ」


私が迷わずこくんとうなずいた直後、秋帆が息を切らしながらこちらにやってきた。


運動が苦手なため、ゼェゼェと膝に手をつきながら息を整えているが、そんなことなどおかまいなしにいっちゃんが話しかける。


「ねぇ、あっきー。そんなに急がなくても私と抹里ちゃんはどこにも行かないよ?」


「……っ、そうだけどさ……なにか緊急事態が起こってたら、急がないわけが……ないでしょ……」


いっちゃんに突然話しかけられてちょっと機嫌が悪くなる秋帆だが、言いたいことをいっちゃんにぶつけた。


1年生のときから秋帆はこうだった。


気が短くて怒りっぽいけど、なにかあったときはいの一番に駆けつけてくれる。


なんだかんだで優しい。
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