誰も知らない彼女
電話の相手が誰だったのかわからないまま黙って待っていると、遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた。


すると、幹恵が目を見開いて向こうへ走りだした。


足が速い幹恵に私が追いつくわけがなく、幹恵を捕まえることができない。


なにもできない私にチラッと目を向けたあと、磐波さんが幹恵の背中を全速力で追いかけた。


男の人には走力でかなうわけがなく、磐波さんが追いかけはじめてからわずか数秒で幹恵はあっさり捕まってしまった。


「は、離してよ!」


「いや、絶対に離すもんか……!」


ギャーギャーと言い争うふたりを連れ戻そうとしたとき、再び階段を上る足音が聞こえた。


もしかして、磐波さんが電話で話していた相手かもしれない。


オロオロしつつもなんとか自分を落ち着かせて、その人物が来るのを待った。


バッグを握る手に力がこもり、手に尋常じゃないほどの汗が出るのを感じる。


「ここですか、連続殺人事件の犯人がいるというのは」


そんな声が聞こえたとき、私の視線は自然とそちらに向いていた。


近くに立っていたのは警察官ふたり。


どちらもベテランの風格を漂わせる。


「君かね、我々に電話をかけたのは」


「い、いえ、違います。あそこの男の人です」


磐波さんの声は、どう考えても女性の声ではないだろう。
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